郵便局とゆうちょ銀行の歴史
ゆうちょ銀行の口座に他の銀行から振り込むとき、通帳の記号・番号ではなく、振込用の店名・口座番号が必要になります。
この二重構造は、ゆうちょ銀行が2009年1月5日まで他の金融機関と振込ができなかったことに由来します。
そもそも、なぜ郵便局が貯金を扱っているのか。
郵便局とゆうちょ銀行はどう違うのか。
外国にも同じ仕組みはあるのか。
公式資料をたどると、いずれもはっきりした答えがあります。
郵便の仕組みは1871年に始まった
日本の郵便事業が始まったのは1871年(明治4年)4月です。
仕組みを築いたのは前島密(まえじま ひそか/1835年〜1919年)で、日本郵政は「日本近代郵便の父」と紹介しています。
前島密の功績は郵便にとどまりません。
日本郵政は、江戸遷都の建言、鉄道敷設の立案、海運政策、国語国字の改良などを挙げています。
鉄道については、1870年に大隈重信から建設費と収支の見積りを命じられ、標準となる資料が国内に全く無いなかで計画案を作り上げたと記されています。
郵便局が貯金を扱うのは、イギリスを見てきたから
郵便に続いて、1875年(明治8年)1月に郵便為替、同年5月に郵便貯金が始まりました。
郵便貯金は東京・横浜の両地からの開始です。
日本郵政は、その動機をこう説明しています。
前島密は、イギリスで郵便貯金が国民の生活や国家の発展に大きな役割を果たしているのを見て、わが国でもこれを実施することにしました。しかし当初は、なかなか一般に理解されないので、彼は私金を出して、それを貯金発端金として預けさせるなど、奨励には苦心しました。 日本郵政「前島密」
手本になったイギリスのPost Office Savings Bankは1861年の創設で、これが世界で最初の郵便貯金です。
日本はその14年後に導入したことになります。
郵便為替についても、日本郵政は「イギリスでの経験から郵便創業の翌年、経済拡大には郵便為替の実施が必要だと建議した」と記しています。
郵便局が送金と貯蓄を扱うという発想そのものが、イギリスから持ち込まれたものでした。
民営化までの流れ
| 年月 | できごと |
|---|---|
| 1871年4月 | 郵便事業創業 |
| 1875年1月 | 郵便為替事業創業 |
| 1875年5月 | 郵便貯金事業創業 |
| 1885年12月 | 逓信省発足 |
| 1906年3月 | 郵便振替事業創業 |
| 1949年6月 | 郵政省発足 |
| 2001年1月 | 省庁再編により総務省と郵政事業庁に再編 |
| 2003年4月 | 日本郵政公社発足 |
| 2006年1月 | 日本郵政株式会社(準備企画会社)発足 |
ゆうちょ銀行そのものの設立日は2006年9月1日です。
このときの商号は「株式会社ゆうちょ」で、2007年10月1日の民営化にあわせて「株式会社ゆうちょ銀行」に商号変更して開業しました。
2009年1月5日まで、他の銀行と振込ができなかった
民営化で銀行にはなったものの、すぐに他の金融機関と振込ができたわけではありません。
ゆうちょ銀行の沿革には、こう記されています。
2009年1月|全国銀行データ通信システムによる他の金融機関との内国為替取扱開始 ゆうちょ銀行「沿革」
つまり、民営化から1年3か月のあいだ、ゆうちょ銀行は全銀システムにつながっていませんでした。
接続の開始日は2009年1月5日です。
このとき利用者に何が起きるかを、ゆうちょ銀行は2008年7月30日の公表資料でこう説明しています。
現在お使いの当行口座をそのままご利用いただけますが、記号・番号は別の振込用「店名」「口座番号」等をご利用いただくこととなります。 ゆうちょ銀行「全銀システムによる振込のご利用方法、料金等について」(2008年7月30日)
これが、記号・番号と店名・口座番号という二重構造の理由です。
1875年から使われてきた郵便貯金の体系を残したまま、全銀システムの体系を後から重ねたということになります。
同じ資料には、通帳への振込用店名・口座番号の印字を2008年9月頃から始めること、専用のコールセンターとWebサイトで確認できるようにすること、全世帯・全事業所へ案内を発送することなどが並んでいます。
変換の法則そのものは「ゆうちょ銀行への振込方法(変換の法則)」で説明しています。
当時の他行あて振込の料金は、窓口が3万円未満630円・3万円以上840円、ATMが3万円未満210円・3万円以上420円でした(いずれも当時の消費税込み)。
なお、金融機関どうしでやりとりされる費用については「内国為替制度運営費とは」を参照してください。
民営化は、法案の否決と衆議院解散を経て決まった
民営化の根拠になっているのは郵政民営化法(平成十七年法律第九十七号)で、公布は2005年10月21日です。
この法律は、成立までの経緯そのものが大きな出来事になりました。
第162回国会に提出された郵政民営化関連6法案は、衆議院では可決または修正議決されたものの、参議院で否決されました。
参議院が公表している2005年8月8日の本会議投票結果には、「日程第1 郵政民営化法案(内閣提出、衆議院送付)」について
投票総数233・賛成票108・反対票125と記録されています。
当時の小泉純一郎内閣総理大臣は同日、民営化の是非を国民に問うとして衆議院の解散を臨時閣議で決定しました。
総選挙のあとの第163回国会に改めて提出された6法案は、与党が衆議院の3分の2を超える議席を得た選挙結果を受けて成立しています。
ゆうちょ銀行という銀行が存在しているのは、この一連の経緯の結果ということになります。
なお、後述する預入限度額を定めている郵政民営化法施行令(平成十七年政令第三百四十二号)は、同じ年の2005年11月16日に公布されています。
郵便局とゆうちょ銀行はどう違うのか
郵便の会社と銀行の会社が分かれたのは、2007年10月1日の民営化のときです。
日本郵政は、このとき日本郵政株式会社・郵便事業株式会社・郵便局株式会社・株式会社ゆうちょ銀行・株式会社かんぽ生命保険の5社体制になったと記しています。
その後2012年に、郵便事業株式会社と郵便局株式会社が統合して日本郵便株式会社が発足し、現在の4社体制になりました。
つまり郵便側は2回にわたって形が変わっており、「日本郵便」という会社があるのは2012年からです。
| 時期 | 体制 |
|---|---|
| 2007年10月1日 (民営化) |
日本郵政/郵便事業/郵便局/ゆうちょ銀行/かんぽ生命の5社 |
| 2012年 | 郵便事業と郵便局が統合して日本郵便が発足。 日本郵政/日本郵便/ゆうちょ銀行/かんぽ生命の4社 |
ゆうちょ銀行は銀行業を営む株式会社で、会社概要には主な事業所として「本社、営業所235」と記載されています(金融機関コードは9900)。
一方、全国の郵便局を運営しているのは日本郵便です。
郵便局の貯金窓口は、銀行代理業としてゆうちょ銀行から委託を受けた業務を行っています。
日本郵便は「銀行代理業に関するお知らせ」を情報公開のページに掲げており、簡易郵便局については別に銀行代理業者の許可一覧を公表しています。
| 窓口 | 運営 | 位置づけ |
|---|---|---|
| ゆうちょ銀行の直営店 | ゆうちょ銀行 | 銀行そのもの |
| 郵便局の貯金窓口 | 日本郵便 | ゆうちょ銀行から委託を受けた銀行代理業 |
提供される商品・サービスについて、ゆうちょ銀行は次のように案内しています。
ゆうちょ銀行でご提供しております商品・サービスの全部又は一部を郵便局の貯金窓口でご提供させていただいておりますので、利率や料金等の条件に違いはございませんが、郵便局の貯金窓口では、店舗によってご利用いただけない商品・サービスもございます。 ゆうちょ銀行「よくあるご質問」
条件は同じだが、店舗によって扱っていないものがあるということです。
この違いは番号にも表れます。
通帳やご利用明細に印字される取扱店番号は5桁で、取引した郵便局を表します。
他の金融機関からの振込に使う支店コードは3桁で、記号から変換して求めるものです。
両者は別物で、取扱店番号から支店コードを求めることはできません(「支店コードの調べ方」)。
民間の銀行と、今も違うところ
民営化して銀行になったあとも、ゆうちょ銀行には民間の銀行にはない制約が残っています。
預けられる金額に上限がある
ゆうちょ銀行には預入限度額があります。
2019年4月1日から、通常貯金(通常貯蓄貯金を含む)が1,300万円、定期性貯金が1,300万円です。
これは同行が独自に決めているものではなく、郵政民営化法施行令という政令で決まっています。
民間の銀行に、法令でこうした上限が課されることはありません。
なお振替口座(振替貯金)には預入限度額がありません。
新しい業務を始めるのに認可が要る
沿革を追うと、「新規業務の認可取得」という記載が繰り返し出てきます。
クレジットカード業務や住宅ローン等の媒介業務(2008年4月)、口座貸越サービスや市場運用関係業務(2017年6月)、フラット35の直接取扱や損害保険募集業務(2021年4月)、投資一任契約の締結の媒介業務(2022年3月)などです。
つまりできる業務が最初からそろっていたわけではなく、1つずつ認可を得て増やしてきたということです。
住宅ローンを自ら直接扱えるようになったのは2021年5月で、それまでは媒介という形でした。
民営化前の貯金は、保護のされ方が違う
同じ「ゆうちょ」でも、預け入れた時期によって保護のされ方が変わります。
| 預け入れ時期 | 扱い |
|---|---|
| 民営化前 (2007年9月30日まで) |
独立行政法人に引き継がれた郵便貯金 |
| 民営化後 (2007年10月1日以降) |
預金保険制度の対象。 元本と利子は政府保証の対象外 |
ゆうちょ銀行自身が「民営化後(2007年10月1日以降)にお預け入れいただいた貯金は、預金保険制度による保護の対象であり、元本と利子は政府保証の対象外です」と明記しています。
なお、この資料が述べているのは民営化後の扱いで、民営化前の貯金の保護については触れていません。
国が保証してくれる貯金ではなくなったということです。保護の仕組みは「預金保険で守られる単位」と同じになります。
金融機関コードも銀行の帯にない
ゆうちょ銀行の金融機関コードは9900で、都市銀行や地方銀行が並ぶ0001〜0999の範囲にはありません。
コードの並びについては「金融機関コード・支店コードとは」を参照してください。
外国にも郵便貯金はある?
あります。
むしろ、日本のほうが後発でした。
万国郵便連合(UPU)は、郵便事業者による金融サービスの規模をこう説明しています。
According to a UPU study, postal operators provide some 1.5 billion people worldwide with access to basic financial services (payments, money transfers and savings). Universal Postal Union「Financial Services」
同じページには、送金・郵便決済サービスを扱う拠点が世界に663,000か所以上あること、郵便部門が金融包摂への貢献で銀行に次ぐ2番目であり、マイクロファイナンス機関や携帯電話事業者を大きく上回ることが書かれています。
ただし、たどった道は国によって違います。
大きく4つに分かれます。
| たどった道 | 国と現在のかたち |
|---|---|
| 続いている | 日本… 1875年に開始。 2007年に民営化してゆうちょ銀行になり、現在も郵政グループの銀行 中国… 郵便貯金業務は1919年に始まった。 2007年3月に中国郵政儲蓄銀行(Postal Savings Bank of China)として設立され、都市と農村の両方に金融サービスを届けることを掲げている |
| 民間銀行になった | ドイツ… ポストバンクは現在、法定表示に「ドイツ銀行AGの一支店」と記載されている |
| 郵便から分かれた | イギリス… 1861年に世界初の郵便貯金(Post Office Savings Bank)。 現在はNS&Iという政府の貯蓄機関になり、郵便局からは離れた |
| 廃止した | アメリカ… 1910年6月25日の法律により1911年1月1日に開始。 1966年に議会が廃止し、1967年7月1日に未請求の預金と利息を財務省へ移管した |
ロシア・韓国・東南アジア各国については、公式資料に到達できなかったため個別には書いていません。
世界全体の傾向は下の節を参照してください。
やめた国は、代わりに何を使っているか
アメリカの郵便貯金は、銀行制度の整備と経済成長によって役割を終えたと説明されています。
廃止時点で未請求のまま残っていたのは60万口座・6,000万ドルでした。
代わりになったのは民間の銀行と信用組合です。
ただし全世帯に行き渡ってはいません。
連邦預金保険公社(FDIC)の2023年の調査はこう報告しています。
In 2023, 4.2 percent of U.S. households—representing about 5.6 million households—were unbanked, meaning no one in the household had a checking or savings account at a bank or credit union. FDIC「National Survey of Unbanked and Underbanked Households」2023
口座を持たない世帯は、銀行以外の手段で同じことをしています。
同じ調査は、マネーオーダー・小切手の現金化・送金サービス・プリペイドカードといったノンバンクのサービスが、口座を持たない世帯で銀行口座の代わりに使われていると報告しています。
この調査が公表している利用率(マネーオーダー8.0%、小切手の現金化2.7%、送金サービス6.6%など)は全世帯を分母にした数字で、口座を持たない世帯だけの割合ではありません。
イギリスは世界で最初に始めた国ですが、今は郵便局と貯蓄機関が別々です。
ただし郵便局から銀行取引が消えたわけではありません。
郵便局は自前の銀行を持たない代わりに、民間銀行の窓口を代行しています。
イギリスのPost Officeは、ほとんどの個人・法人の銀行口座について、郵便局の窓口で現金の預け入れ・引き出し・残高照会・小切手の預け入れができると案内しています。
世界全体では、郵便が銀行を持つほうが少数派
UPUは世界の郵便金融を国横断でまとめた調査を出しています。
最新は2023年版で、その前は2016年版でした。
2023年版によると、郵便の口座は世界で24億、顧客数は12億人です(2016年の19.6億から20%増)。
一方で、銀行免許を持っている郵便事業者は23%しかありません。
つまり「郵便局が銀行そのものを持っている」日本・中国のかたちは、世界では少数派です。
❗ ただし、その少数派がどこに多いかは直感と逆です。
Countries in the higher income categories are more likely to offer agency services for other financial services providers, while those in lower middle income groupings are more likely to have a postal bank. UPU「Global Panorama on Postal Financial Inclusion 2023」
低中所得の国ほど郵便が銀行を持ち、高所得の国ほど他社の代理店になる、ということです。
地域で見ても、南アジア・オセアニア・アフリカは送金と郵便銀行の運営が多く、西欧は規制が成熟していて代理店業務が多い、と報告されています。
イギリスのかたちは西欧の典型です。
郵便局が金融をやめるのではなく、豊かな国ほど「自分で銀行をやる」から「他行の窓口を貸す」へ移っているという図です。
日本が郵便の銀行を持ち続けているのは、先進国としては珍しいかたちだといえます。
よくある質問
民営化の前は、他の銀行に振り込めなかったのですか?
民営化の前どころか、民営化の後も1年3か月のあいだできませんでした。
全銀システムを通じた他の金融機関との内国為替の取扱いが始まったのは2009年1月5日です。
ゆうちょ銀行の支店はいくつありますか?
ゆうちょ銀行の会社概要には、主な事業所として「本社、営業所235」と記載されています(2026年3月31日現在の従業員数10,659名)。
これとは別に、全国の郵便局の貯金窓口で銀行代理業としての取扱いが行われています。
ゆうちょ銀行の預金は保護されますか?
されます。ゆうちょ銀行は預金保険の対象金融機関で、預金保険機構が公表している一覧に「その他の銀行」として挙げられています。
詳しくは「預金保険で守られる単位」を参照してください。
