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2023年10月の全銀システム障害

2023年10月10日、他の金融機関あての振込が処理できなくなる障害が起きました。
影響を受けたのは10の金融機関で、復旧したのは10月12日の午前3時30分頃です。

銀行間の振込を処理している全銀システムは1973年4月に稼働しました。
止まったのは全銀システムのホストコンピュータではなく、10の金融機関を全銀システムにつなぐ中継コンピュータです。
全銀ネットは現在も、全銀システムについて「1973年の稼動開始以来、運用時間中にオンライン取引を停止したことがない」と説明しています。

それでも、影響を受けた10金融機関では他行あての振込が丸2日にわたって処理しきれない状態が続き、金融庁が報告徴求命令を出す事態になりました。

原因として公表されているのは、内国為替制度運営費を電文に付ける処理でした。
他の金融機関あての振込のときに、振込を送り出した側から受け取る側へ支払われる費用です。

止まったのは10金融機関の「テレ為替」

全銀システムは、ホストコンピュータのある全銀センターと、各加盟金融機関が全銀センターへ接続するための中継コンピュータ(RC)で構成されています。

2017年に提供が始まったRC17シリーズのうち、最初に導入された機器が2023年10月に保守期限を迎えることから、全銀ネットは後継機種のRC23シリーズを開発し、10月7日から9日にかけて14の加盟金融機関で移行しました。

移行後の最初の営業日である10月10日午前8時35分頃、そのうち9金融機関でRC本体装置がシステムダウンしました。
同日午前9時43分頃にもう1金融機関で同じ事象が起き、合わせて10金融機関と全銀システムのあいだで、1件ごとの振込を扱うテレ為替が全面的にできなくなりました。

影響を受けた10金融機関(全銀ネット・NTTデータの公表資料による)
金融機関コード 金融機関
0005三菱UFJ銀行
0010りそな銀行
0017埼玉りそな銀行
0159関西みらい銀行
0170山口銀行
0191北九州銀行
0288三菱UFJ信託銀行
0324日本カストディ銀行
0569もみじ銀行
2004商工組合中央金庫

いずれも、平日日中の処理を行うコアタイムシステム用のRCを新機種へ移行した金融機関です。
平日夜間や休日を担当するモアタイムシステムは、この障害では止まっていません。

原因は「内国為替制度運営費」を付ける処理

他の金融機関あての振込では、振込を送り出した金融機関(仕向)から、受け取る金融機関(被仕向)へ内国為替制度運営費が支払われます。
金額は電文1件ごとに付けられ、種目によって異なります。
この費用そのものについては「内国為替制度運営費とは」で説明しています。

この金額を電文に入れる方法は2通りあります。

内国為替制度運営費を電文に入れる2つの方法(全銀ネットの公表資料による)
方法 今回の影響
金融機関があらかじめ電文に金額を入力してRCへ送る 影響なし
(新機種へ移行した3金融機関)
あらかじめRCに設定されたテーブルを参照して、RCが電文に金額を入力する RCが異常終了
(新機種へ移行した10金融機関)

後者のテーブルを参照する処理でエラーが起き、RCがシステムダウンしました。
なお新機種へ移行した14金融機関のうち残る1行はJPモルガン・チェース銀行で、コアタイムシステム用のRCは旧機種のままだったため影響を受けていません。

破損していたのは共有メモリ上のテーブル

全銀ネットとNTTデータは、直接的な原因を次のように説明しています。

今回のシステム障害が発生した直接的原因は、内国為替制度運営費情報を取得する前段でアクセスする共有メモリ上のインデックステーブルにある加盟金融機関の値の一部が破損したことによるものです。 全銀ネット・NTTデータ「全国銀行データ通信システムの障害について」(2023年12月1日)

このインデックステーブルは、RCの起動時にロードファイルから展開されます。
そのロードファイルを生成するプログラムに不具合があり、一時的に確保する領域が不足したため、ロードファイルの内容が破損していました。

領域が不足した経緯はこうです。
RC23シリーズの開発ではOSのバージョンアップに伴い、ロードファイルを作る際に使う4つのテーブルのうち1つのサイズを拡張しました。
このプログラムは、一時的に確保した領域に4つのテーブルをまとめて展開する仕様でしたが、製造工程で各テーブルが個別に展開されるものと理解され、領域の拡張が行われませんでした。
修正内容の再検証でも、拡張の必要性は指摘されませんでした。

復旧までに丸2日かかった

復旧作業は2段階に分かれます。

復旧の経過(全銀ネット・NTTデータの公表資料による)
日時 できごと
10月10日
8時35分頃
9金融機関でRC本体装置がシステムダウン。
9時43分頃にもう1金融機関で発生
10月10日
17時頃
テーブルを参照せず固定値を入力する暫定対処ⅰを決定
10月11日
3時45分頃
検証でエラーが続き、8時30分のオンライン開始に間に合わないと判断。
暫定対処ⅰを断念
10月11日
13時頃
金額を一律0円とする暫定対処ⅱを決定
10月12日
3時30分頃
暫定対処ⅱが問題なく起動していることを確認(復旧)

暫定対処ⅰが断念されたのは、取引の種目を判別して金額を入力する改修が複雑で、検証でエラーが続いたためです。
最終的に採られたのは、金額欄に一律0円を入れるという単純な修正でした。

内国為替制度運営費は金融機関のあいだで受け渡す資金であり、この対処による利用者への影響はないと説明されています。

振込そのものは代替手段で処理された

障害のあいだ、全銀ネットは影響を受けた10金融機関に対し、RCを使わずにデータを授受する代替手段を依頼しました。
複数の為替通知をまとめて送受信する新ファイル転送のバックアップ機能と、電子媒体の搬送です。

それでも当日中に処理しきれない取引が生じました。
これまで入力していなかった内国為替制度運営費を自分のシステムで入力する必要が生じたこと、データ量が多かったこと、電子媒体の搬送に時間がかかったことが理由として挙げられています。

代替対応の状況(単位:万件。2023年10月18日時点の概算値・全銀ネット公表資料)
区分 10月10日分 10月11日分
仕向(送信)全体150105
うち未処理
(11日の通信終了時点)
4938

受け取る側(被仕向)については、10日分152万件・11日分99万件がいずれも11日の通信終了時点で処理済みとされています。
全銀ネットは10日と11日のコアタイムシステムの通信時間を1時間延長しましたが、予定していたすべての取引を処理することはできませんでした。

利用者に生じた損害の補償については、2023年10月18日に加盟金融機関による申し合わせが行われ、公表されています。

金融庁への報告と、その後

金融庁は、資金決済に関する法律第80条第1項にもとづく報告徴求命令を、10月13日に全銀ネットへ、10月27日にNTTデータへ出しました。
両者は11月30日に金融庁へ報告し、翌12月1日に経緯・原因・再発防止策を連名で公表しています。

公表された課題は、システムの不具合そのものよりも体制の側に重心があります。

公表された主な課題(2023年12月1日の報告による)
どちら 課題
NTTデータ 設計・製造工程プロセス
試験工程プロセス
復旧対応プロセス
全銀ネット 委託者としてのマネジメント不十分
加盟金融機関も含めたBCPの実効性不足
大規模障害を想定した危機管理体制の脆弱性
システム人材の不足と組織の脆弱性

試験工程については「変更を加えていないテーブルが正しく作成されていることの直接確認ができていなかった」こと、復旧対応については「過去に実績のない両系同時障害を想定した訓練が実施出来ていなかった」ことが挙げられ、再発防止策として、変更対象外のテーブルについても新旧を比較することや、実取引相当のデータを用いた疎通試験を行うことが示されました。

全銀ネットは2023年12月に金融庁から改めて報告徴求命令を受けており、改善・再発防止策の進捗状況を定期的に報告しています。
公表されている進捗報告は2024年4月1日・7月10日・10月10日・2025年1月10日です。
2025年1月10日の報告では、代替手段の運用訓練が140行中111行で実施済みであることなどが示されています。

この障害が全銀システムについて示したこと

振込の電文には、金額や口座番号のほかに金融機関どうしが受け渡す費用も乗っています。
利用者からは見えない項目ですが、その付加処理が止まると振込そのものが通らなくなります。

もうひとつは、コアタイムシステムとモアタイムシステムが別のシステムだということです。
今回止まったのは平日日中を担当するコアタイムシステム用のRCで、モアタイムシステムは動いていました。
2つの時間帯の関係は「モアタイムシステムとは」で説明しています。

よくある質問

この障害で振込のお金が消えたのですか?

送金の処理が滞ったもので、代替手段による処理と復旧が行われました。
当日中に処理が完了しなかった取引について、利用者に生じた損害の補償の考え方は、2023年10月18日に加盟金融機関の申し合わせとして公表されています。

内国為替制度運営費は利用者が払うものですか?

利用者が金融機関に払う振込手数料とは別のもので、振込を送り出した金融機関から受け取る側の金融機関へ支払われます。
復旧のために一律0円としたことについて、全銀ネットは金融機関のあいだで受け渡す資金であるため顧客への影響はないと説明しています。

同じ障害はまた起きますか?

直接の不具合は修正され、再発防止策と進捗の報告が続いています。
一方で公表された課題には、委託先の管理・BCP・危機管理体制・人材といった組織の問題が並んでおり、これらは1回の修正で終わる種類のものではありません。

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